『巴里のアメリカ人』

1951/アメリカ


american
監督:ヴィンセント・ミネリ
原作:アラン・ジェイ・ラーナー
脚本:アラン・ジェイ・ラーナー
撮影:アルフレッド・ギルクス
音楽:ジョージ・ガーシュウィン

ジェリー/ジーン・ケリー
リザ/レスリー・キャロン
アダム/オスカー・レヴァント
アンリ/ジョルジュ・ゲタリー


 ミュージカル映画の定番を観てみました。


 初めてミュージカルというものに遭遇したのは、子供のころテレビで観た「音楽座」の舞台だったと思う。抽象的な舞台装置に幕間を作らず、場面の転換さえも演出され、物語の間に自然に音楽が溶け込み、とても魅力的で、今でもすばらしい舞台だったという記憶が残っている。

 次にミュージカルというものに興味を持ったのは、手塚治虫の後期の名作「七色いんこ」である。この作品はとても珍しい”演劇漫画”である。役者版ブラック・ジャックといった感じだが、主人公はとてもおっちょこちょいで、どちらかというとギャグマンガの要素が強い。この作品で舞台演劇の面白さに惹かれたが、当時音楽にのめり込んでいた時期であったため、かろうじて泥沼のような(?)演劇の世界に足を踏み入れずに済んだ。

 その後テレビでは結構舞台劇の中継などをちょくちょく観るようになる、ただしミュージカルに関しては、ブロードウェイの「Cat’s」を観てげんなりして以来避けるようになる。「音楽座」の舞台のテレビ中継などは、全く無くなっていた。

 そんな私に再びミュージカルの魅力を叩き付けたのが、フレッド・アステア&オードリー・ヘプバーンの「パリの恋人(Funny Face)」であった。とにかくアステアの洗練されたダンスと、ヘプバーンの野性味ある躍動的なダンスに釘付けになった。

 ということで、ミュージカル映画の名作たちに挑戦することにした、元々ダンサー(!)をしていたこともあり、本当のダンスを勉強してみることもいいだろうとも考えた、ただし現在はもう踊れない体になっているが・・・。

 まず初めにこの「巴里のアメリカ人」を観ることに決めたのは、私が創作したカクテル「パリのアメリカ人」が、この映画のタイトルにちなんでいたからだ。

 主演はジーン・ケリー、タップダンスの名手である。彼のタップは「トムとジェリー」のジェリーと競演(!)した「錨を上げろ」のワン・シーンを見たことがある、あと有名なシーンでは「雨に歌えば」での、雨の街角を華麗なステップを踏みながら、跳び回るように踊るシーンだろう。

 本作でもジーン・ケリーの華麗なステップを、思う存分堪能できることは間違いない。

 ストーリー事態は、本当に他愛もない男女の四角関係の顛末で、さして特筆するようなものはない。

 ミュージカル映画であるから、その音楽とダンスを堪能するのが正しい見方であろう。

 目を見張るダンスシーンとしては、ジーン・ケリーがパリの下町の花屋の前で、子供たちに囲まれながらタップを踏む場面である。これでもか、これでもか、と畳み掛けるタップは圧巻である。

 ラストで延々と続くダンスシーンは、一見の価値あり!

 主人公が画家ということもあり、ここではデッサンや水彩、油絵で描かれたパリの街の中を大人数で踊りまわる。

 何がすごいかというと、そのセットとカメラワーク、照明効果である。この作品一番の見せ場であろう。

 この作品の製作スタッフたちは、絵画の中で踊る、という無理難題を見事にクリアしている。計算されつくしたカメラワークと、セットの配置には脱帽である。スモークの噴水は見事という他ない。映画というものが、決して一人で作れない、チームワークで製作するものであることを痛感する。監督とスタッフに拍手である。

 もうひとつの見せ場として、ガーシュウィンの音楽である、特にオスカー・レヴァントの一人オーケストラのシーンは、ガーシュウィン節炸裂である。レヴァントのピアノ演奏もすばらしい!

 作品全体を通していえるのは、ストーリーの恋愛劇が単調なため、途中で飽きてくるという致命的な弱点を持っている。これを救っているのが、やはりというか、主演のジーン・ケリーのダンスである。ガーシュウィンの音楽と、ケリーのダンス、この二つでどうにか最後まで観れた、という感は拭えない。
 Nozomiの評価は★★★☆☆(三ツ星)面白い映画なのは確か。

 とはいえ、私がミュージカル(映画)好きであることは、どうやらはっきりしたらしい。しばらく古き良き時代のアメリカの古典ミュージカル映画を鑑賞してみようと思う。

 最後にヒロインのリズを演じたレスリー・キャロンについて、ジーン・ケリーに見出され、この作品で映画初出演・初主演。もちろんダンスは素晴らしいが、二人の男をメロメロにするような魅力が全く感じられない。演技力がまだまだということなのかな? 後に「足ながおじさん」でアステアと共演しているので、今から見るのが楽しみである。

Proudly powered by WordPress | テーマ: Baskerville 2 by Anders Noren

ページ先頭へ ↑