「iBooks で読む本がない!」とお嘆きの貴兄に!


 iPadや、iPhone・iPod toich の iOS4 対応で、iBooks というApple 純正の電子書籍アプリが使用できるようになった。
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 iBooks ブックシェルフ


 iBooks とは、Apple iBooks Store から電子書籍を購入、閲覧するためのアプリだが、著作権(定義は各国の著作権法による)の消滅した書籍など、無料で配布されているものもいくつかある。


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 Apple iBooks Store


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『くまのプーさん(英語版・挿絵入り)』


 しかし現段階(2010年6月現在)では、日本語の書籍などは全くない。
 これは未だ日本でのサービスが、本格的に開始されていないという事もあるだろうが、iBooksが横書き表示のみ、という事も対応の遅れに関係しているのかもしれない。


 日本では、iPhone (iPod touch) 用の「i文庫」、iPad 用では「i文庫HD」などの、縦書きで日本語禁則処理に対応した“青空文庫(汎用テキスト)リーダー”があり、こと電子書籍、特に近代古典文学に関しては一歩先を行っていた感さえあったが、ここへ来て現代出版物に関して置いてけぼりを喰らいそうだ。


 20世紀末……

 インターネットの急速な普及と共に、書籍に関して世界の西と東で、小さいながらも新しい動きが見られた。

 西と東で起きた運動は、どちらも著作権の消滅した書籍などの著作物を、Text という電子情報に置き換え、誰もが無料で自由に閲覧できる“電子図書館”をネット上に造ろう、というものであった。

 初めに西で勃興した運動が、いわゆる「プロジェクト・グーテンベルク」である。

 活版印刷の父の名を関したその運動は、現在では Apple iBooks Store の無料コンテンツの強力なバックボーンとなり、21世紀の商業ベースに花開いた。


続いて「プロジェクト・グーテンベルク」を参考に、当初ははボイジャー社の電子ブックコンテンツ作成を目的とした「青空文庫」が東で起こる。

 「プロジェクト・グーテンベルク」が、徐々に規模を拡大して行き、法人として機能していくのに対し、「青空文庫」は、あくまでボランティア・ベースでの運用であった。

 これは後に収容文書の量として影響してくる(日本語文章の校正の煩雑さも理由の一つだが)。


  「プロジェクト・グーテンベルク」が
  “アメリカ独立宣言”から始まったのに対し

  「青空文庫」は
   與謝野晶子や森鴎外から始まったのは
   興味深い対比である


 さて、ここで iBooks に話は戻るわけだが、Apple iBooks Store には日本語の書籍が無い! とのことだが。

 無いものは他から持ってくるか、作ってしまうしかない!

 iBooks は専用の電子書籍以外に PDF ファイルが読める、という特徴がある。

 ごく一般的な PDF ファイルを、iTunes へドラッグドロップすると、ライブラリに登録され、そのまま同期すれば iBooks で閲覧可能となる。

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 iBooks ブックシェルフ(PDF)


 日本語の PDF 文書と言っても「青空文庫」には PDF 形式のファイルは置いていない。


 そこで 20世紀末に起きた、もうひとつの“電子図書館計画”「プロジェクト杉田玄白」である。

 先程紹介した二つのプロジェクトは、著作権の消滅した文書をデジタルに変換するものであったが、「プロジェクト杉田玄白」は、原著の著作権は消滅しているが、翻訳著作権が存在している海外作品を、独自に翻訳し GPL として公開している(注:日本では著作権の放棄は出来ない)

 要は翻訳著作権を主張しないので、自由に閲覧・配布してイイヨということだ。

 ここでのデフォルトのフォーマットは基本的に html 形式であるが、いくつか PDF 形式のものもある。

 代表的なのは『不思議の国のアリス』オリジナルの挿絵入り、『鏡の国のアリス』同、挿絵入りなどだ。

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『不思議の国のアリス(挿絵入り)』


 無料の英語版がApple iBooks Store にあるが、iPhone で読むと挿絵が切れていたりしていて残念だ。

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『不思議の国のアリス(英語版・挿絵/縦)』

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『不思議の国のアリス(英語版・挿絵/横)』


 「プロジェクト杉田玄白」の PDF 版は、レイアウト的に iPhone で読むには辛いかも知れないが、横画面にしダブルタップで拡大をすると比較的読みやすくなると思う。

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『不思議の国のアリス(挿絵/縦)』

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『不思議の国のアリス(挿絵/横)』


 次に自ら PDF を作るということ……

 Mac ではシステム標準で、印刷メニューから PDF に書きだすことが出来る。

 「プロジェクト杉田玄白」や「青空文庫」の Text / html 文書を、ブラウザやエディタで PDF にしてしまえば OK だ。

 Windows に関してはあまり詳しくはないが、オンラインウェアに、PDF に書きだすためソフトがあったと思う。


 その他素材に関しては……

 ネットの広大な海をさまよえば、大学の研究機関のサーバなどに、日本語の古典文学の Text や研究論文(私は昔、海外の大学のサーバで、日本語版の『竹取物語」』の Text にお目にかかった)、その他ホームページの論文など、素材となる Text や html はいくらでもある。


 最後に一から PDF を作るということについて……

 ネット上の隠語では“自炊”と呼ばれる作業である。

 これは市販の本/雑誌を裁断機でバラし、両面同時スキャンが出来るスキャナを使い、パソコンに取り込み、PDF にするという方法である。

 機材にお金はかかるが、iPad iPhone で最新雑誌を持ち歩く、ということも可能になってしまう。

 iBooks は単なる電子書籍出版のベース・フォーマットとしてだけではなく、総合ビューアとして成長していく可能性がある、期待のできる面白いアプリとも言える。

 だがまずは、縦書き日本語禁則処理に対応していただきたい!(‘ x ‘ )


 今回はメッチャ真面目な、そしてやたらに長いエントリとなりました (^_^;

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