梅田さんは死神博士に似ている。真っ白な頭髪に鋭い眼光、ガッリガリに痩せた体は、体重 42kg だと云う!!
仮面ライダー(1作目)に登場する
悪の組織ショッカーの大幹部
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上の画像が死神博士、演じるのは故・天本英世さん、まだ若かりし頃ですね。子供の頃は、おじいさんに見えたんですが(笑)
年を取らせて、白髪にして、もう少し痩せてヨロヨロにすると、梅田さんになる!
梅田さんとは病室は別である、個室に入っていらっしゃる。病状のせいなのか、お金持ちだからなのかは判らない。そんなことは詮索するものではない、ここではみんな病人なのだから。
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世の中には、知らなくていい事、知らない方がいい事は、数え切れないほどある。
すべてを知ることが、イコール幸福ではないことは、ゲーテが「ファウスト」を書いた頃から、解っているのだ。
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梅田さんは、いつも誰かと話している、幻聴である、いつも見えない相方と一緒なのだ。しかも何故か、いつでも怒って話している、小声だが、ずっと喧嘩しているのは判る。
梅田さんの話は、ごっそり抜けた歯の間から、空気が漏れて、内容はよく聞き取れない。
時々普通に話しかけてくるが、何度聞き直しても、何を言っているのか解らない。いつも、だいたいの所で意味を想像して返事をしている。
トイレ(大)に入っていても、梅田さんがやって来るとすぐに分かる。しゃべりながら入って来るからだ。トイレの中では気が緩んでいるのか、かなり大きな声で怒っている。マジで喧嘩していた……(汗)
梅田さんは、超が付く程のヘビースモーカーである。病棟内の喫煙所の灰皿を一番汚すのも、梅田さんである。LARK スーパーライトのフィルターを引きちぎり、両切りにして吸う。親指でタバコをはじいて、バンバン灰を落とすので、灰皿の周りまで汚れてしまう。そして、灰皿の周りを掃除するのは、良く気のつく私なのである。
病棟内の喫煙所はガラス(というか強化アクリル)張りである。その中で、独りでタバコを吸っているときだけは不気味だ。独りぽつんと、パイプ椅子の上にあぐらをかいて、タバコを吹かしながら怒鳴っているのは、外から見ていて恐い……。
ある時、梅田さんが独りの女性患者を意識しているのが判った! 相手は 20歳代の、ちょっと気の強い女性。彼女も喫煙者である。
彼女は、
「最近、梅田さんがよく話しかけてきて、おもいっきり顔を近づけてきたりするから怖い。食事の時も私の隣に座ろうとするし……」
とぼやいていた。
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現在では喫煙者は、隔離される側であるので、特に職場や病院の喫煙所などでは、特定の人々と頻繁に顔を合わせるようになる、すると一種独特の「仲間意識」の様なものが生まれ易い。
この病棟では、主に私が中心となって、若い喫煙者を束ねている(笑)タバコを吸わない時でも、ここ(喫煙所)に集まって、皆で駄弁っていることが多い。
時々、非喫煙者の若い患者が、わざわざ喫煙所内へ駄弁りに来ることさえある。
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狭い喫煙所は、中央に排煙機能付きのテーブルと灰皿,その周りにパイプ椅子が並べてある。手前に人が座っていると、奥の椅子に座るのは、けっこう大変だ。
いつもはどっしり構えて、小さな声でブツブツ言いながら、スパーっスパーっと豪快にタバコを吸っている梅田さんが、ちょうど一番手前の椅子に座っていた。
梅田さんの向かいの、やはり一番手前の椅子にも、別の患者さんが座っていて、私と駄弁りながらタバコを吸っていた。
そこへ例の彼女がやって来た。彼女は梅田さんがいるのを見て、一瞬ギョッとして、梅田さんの向かい側の列の奥へ、半ば強引に割り込むようにして椅子についた。
その時私が目撃したのは、ちょっと恥ずかしそうに、小さくなりながら、彼女が通りやすいようにと、体を横に向け、足をどけた梅田さんの姿だったのだ。
きっと(こちらの椅子へどうぞ)という彼なりの配慮なのだろうが、彼女はそんなことは全く気付かずに、後になって私の口からその行動を聞いて、ますます梅田さんが嫌いになったようだった。私は(梅田さんも結構カワイイところがあるんだな)などと思ったのだが(笑)
ある日とてもにこやかな梅田さんを見た、笑顔で話している、何があったのかは判らないが、どうやら今日は仲直りしているらしい。その日一日、ご機嫌で、見えない相方と、楽しそうに話していた。こういう日もあるのか……。
けっこうやさしいじいちゃんだったりするのだ。
※この文書は、限りなく真実に近いフィクションです。登場人物に、モデルはいますが、あくまで架空の人物です(‘ x ‘ )